ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが行い話題となった遺伝子検査。体の細胞から抜き取った遺伝子を調べることで、今後かかりやすい病気や体質、感性、身体能力を調べることができる検査です。近年は日本でも子どもに受けさせてみたいという声も増えていて、民間企業も商品数を増やしています。
まだまだ日本国内では認知度の低い遺伝子検査とは一体どういったものなのか、そのルーツと検査キット、仕組みについて説明します。
遺伝子検査とは何か
遺伝子検査とは、自分の細胞核内にある遺伝子を調べることで、遺伝的に将来かかりやすい病気や身体能力、体格、アルコールの代謝能力など、あらゆる情報を調べることができる検査のことです。
あくまでも、検査であり判断で「診断」ではありません。日本では今のところ民間企業と医療機関どちらでも受けることはできますが、医師法第17条において“医師でなければ医業をなしてはならない”と決まっているため、民間の検査では「診断」という言葉は使用されていないのが実情です。
また病気に関しては、遺伝要因が約30%で生活習慣などの環境要因が70%影響するとされており、検査結果でどういった病気になりやすいかという確率は、個人差があるため発症リスクは異なります。例えば、ある特定の病気になる可能性が低かったとしても、タバコや暴飲暴食などで遺伝子に変異が起こり、将来的に発症する可能性が大きく変わることもあり得るということです。
遺伝子検査は年齢関係なくできます。生まれもった遺伝子は年齢を重ねるごとに変化することはないため、0歳で検査しても30歳や50歳で検査しても、結果に変化が生じることはありません。ただし、検査するキット(会社や病院)を変えて行うと、検査方法の精度の違いから稀に違う結果が出てしまうこともあるようです。
ルーツ・歴史、現在の遺伝子検査

遺伝子の本体がDNAであることが1940年に明らかになり、その構造が二重らせんになっていることが発表されたのが1953年。そこからヒトのDNAを解析するプロジェクトが始まり、2003年になると全ての塩基配列が解読されました。
1980年代頃になると解析技術も向上し、処理能力に限界があったジデオキシ法から解析能力から精度に定評のあるシークエンサーが普及しました。民間や医療機関で行われている対個人に向けた遺伝子検査サービスではシークエンサー法が用いられています。
ヒトゲノム計画の完了3年前の2000年あたりからアメリカでは遺伝子検査ビジネスがスタート。当時は数百ヶ所に及ぶ医療機関・民間企業が参入しましたが、現在ではすでに淘汰され数社が生き残っているだけです。これと同じくして日本でも2012年あたりから薬局なども含め700社以上が参入しています。
当時は、日本よりも遺伝子検査サービスの認知度が高い中国企業が日本国内向けにサービスを開始していたようですが、採算の面からどの会社も撤退しているようです。そして現在では、ゲームで有名になったディーエヌエーや福岡に本社を置くDNA FACTOR(ディーエヌエーとは無関係)など、大手や中小企業がサービスを提供しています。
日本でも少しずつ認知度が上がり、利用者も増えている遺伝子検査ですが、ガンや疾患に関する検査は基本的に医療機関以外で検査・診断してもらうことは医師がいない限りできません。主流となっているのは身体能力や性格、生活習慣病に関する項目で、主に子どもに受けさせたいという親の需要が高まっているようです。
検査キットについて
民間と医療機関の違い
日本での遺伝子検査は「民間の企業」と「医療機関」で行われているものがあり、検査キットはネットや薬局でも購入できます。民間で行われている検査の多くはDTC遺伝子検査というもので、正式名称はダイレクト・トゥー・コンシューマー。直訳すると「消費者直接販売型」と言います。
民間の企業で行う遺伝子検査では、検査時に提供するサンプルは主に唾液と口腔内粘膜で、企業は依頼主からサンプルを提供された後、外部委託する企業で検査するか自社内で検査します。
一方、病院で行われている検査は遺伝医療の専門家の検査のもと、発症前診断・出世今診断など民間では出来ない疾患を調べることができます。提供するサンプルには血液や尿があり、看護師・准看護師、臨床検査技師の資格を必要とする人の手によって採取されます。また、病院で調べる場合は一部保険が適用されるものがあります。
遺伝子検査の価格や日数について
民間のDTC遺伝子検査キットの価格ですが、調べる項目と検査方法の違いによってバラつきがあります。比較的手軽にできるアルコールに対するキットは約5,000円。ガンや生活習慣病、糖尿病リスクなど病気に関する項目が多い検査キットは3万円~7万円と大きな開きがあります。身体能力・感性・生活習慣病と特定の項目だけを調べる場合は数千円から可能のようです。
サンプルを用紙したら専用キットを販売元に送り返します。検査結果が出るまでの期間も価格と同じで項目数と検査方法によってバラつきがありますが、大体1週間から1ヶ月未満。項目数が200以上を超える場合は2ヵ月かかることもあります。
遺伝子検査は既に身近なものとなっている反面、国内では2012年あたりから民間企業の参入が相次ぎ、それに伴い国民生活センターへの被害・トラブル相談も増えています。そのため、経済産業省はCPIGI(特定非営利活動法人個人遺伝情報取扱協議会)の認定を受けた企業の検査キットの利用を推奨しています。
補足ですが、検査キットの結果というのは先天的なものに関しては過去から現在まで日本国内の検査対象者のデータを基に照合し導き出されています。後天的なものが原因となって表れるデータに関しては世界中の論文を参考にしながら導き出され確率として結果を提出されているため、企業によっては参考にする論文の違いがあり、同じ検査を受けたにも関わらず異なる結果が出てしまうこともあるようです。
できるだけ正確な判断を出してもらいたい場合は信憑性の高いシークエンサー法を取り入れている企業のキットを利用することをオススメします。
遺伝子検査のメリット・デメリット

遺伝子検査は、病気へのリスク対策になったり、子どもの才能を引き出すことができたりと非常に魅力的なものではありますが、メリットばかりではなくデメリットもあります。これから検査を受けてみたいと検討している方はメリット・デメリットのどちらも知ったうえで検討されたほうがいいでしょう。
筆者が考える遺伝子検査のメリット・デメリットについてまとめました。
メリット
遺伝子検査の大きなメリットは将来なり得る病気を知ることが数値化して確認することができる点です。
これまでは家系的にどういった体質の人がいるかで“なりやすい”という病気が指摘されていましたが、その指摘をより分かりやすく確率として認識することができるため、どれくらいの可能性でなりやすいのかをより明確に知ることができます。
人によっては数値がパーセントで表示されるので「確率論でしかない」という意見もあるかもしれませんがパーセンテージが高い、低いに関係なく予防に対する意識が高まるのではないかと思います。
また、近年人気の子ども遺伝子検査は、どういった才能に秘めているのか(潜在能力)を数値として細かく把握できるため、決められた時間を有効につかって出来るかぎり子どもの才能を伸ばせる可能性があります。音楽・運動・勉学など色々な分野がありますが、何に対して潜在的な才能を持っているのかを親や子ども自身が知っているのと知らないのとでは、その後の人生に大きく影響するのではないでしょうか。
デメリット
今の日本には遺伝子検査に関する明確なルール(法規制)がないため、アメリカで起きたような就職や保険加入など個人情報の差別が起こることがあるかもしれません。アメリカでは昔、ある企業が遺伝子検査をもとに雇用を決定するという差別的な事件がありました。また、保険の加入を断られるといったことが起きています。
この影響を受けて、アメリカでは既に『米国遺伝子情報差別禁止法』が連邦レベルで成立してはいますが、それでも未だに遺伝子検査の結果を基にした差別は続いているようです。
ですから、今後日本でももしかすると遺伝子検査が普及すれば同じことが起きるかもしれません。また、遺伝子検査の結果が保険会社でも閲覧できるようになった場合、特定の保険には加入できないといった問題も十分考えられる話です。
遺伝子検査キットは手軽に入手できますが、検査を行うにはこういったデメリットが背景として実際に起こり得るということを理解しておいたほうがいいでしょう。
まとめ

1940年に遺伝子の本体がDNAということが判明し誰でも簡単に、そして手軽にできるようになった遺伝子検査。自分の性格・能力・将来的な病気の可能性を調べることができるというのは、個人差はあれど自分の人生において大きく影響するのではないでしょうか。
アンジェリーナ・ジョリー効果、個人情報の2次利用、差別的な問題といったデメリットがあることも確かですが、医療機関で行われる遺伝学的検査は先天的な病気の治療にも応用されています。検査キットの利用を検討している方はメリット・デメリットをしっかり理解し検討してみてください。
ちなみに、筆者のまわりでも最近遺伝子検査を受ける人が増えています。
